先代の思いを技術とともに受け継ぐ | まるまんじんぎす館の店主に聞く

ジンギスカンといえば北海道のイメージが強くある方も居るかもしれませんが、実は遠野は昔から『焼肉といえばジンギスカン』と言われるほど「ジンギスカンのまち」。

スーパーでは焼肉用に切られたジンギスカンがズラリと並び、その横にはすぐに使えるお野菜も並びます。

北海道のように味付け肉を野菜の上で蒸し焼きにするスタイルとは異なり、遠野のジンギスカンは、味付けされていない肉を鍋で直接焼く、より焼肉に近いスタイルが特徴です。

市内にはジンギスカンを提供する飲食店も多く、店舗ごとにお肉の切り方やタレにこだわりがあり、それぞれ好みのお店でジンギスカンを楽しむのもまた遠野流ジンギスカンの醍醐味です。

今回は、そんな市民から愛される「ジンギスカン」を提供している『まるまんじんぎす館』の北湯口さんにお話を伺いました。

遠野市で生まれ育った北湯口さん。物心ついたときには、親戚が集まるといえばおうちでガスコンロを囲んでジンギスカンを楽しむ文化があったといいます。

そんな背景もあってか、まるまんじんぎす館でアルバイトをしていた北湯口さん。ところが2017年、転機が訪れます。先代店主である小田さんがご病気になりお店に立つことが難しくなってしまったのです。

まるまんじんぎす館で提供するお肉は、ジューシーでやわらかいのが特徴。小田さんのご実家が精肉店だったということもあり、開店当初からスジや油を丁寧に取り除くというこだわりの切り方を続けてきたからこそ出せる味でした。

このお肉を切る工程はとても繊細なため小田さんしかできませんでした。最も味にかかわる工程のため、責任重大です。他のスタッフだけではお店は続けられないと、泣く泣く一度お店を閉めることになりました。

しかし、北湯口さんには「まるまんじんぎす館を復活してほしい」という多くの市民からの要望が寄せられました。

そんな閉店を惜しむ声をきっかけに、ご自身も大好きなお店を守るため、北湯口さんは小田さんと相談しながら再開に向けて体制を整えていきました。

「自分も経験してきたような、親戚がガスコンロの周りに集まって、みんなでジンギスカンを囲めるお店として続けたい」

営業再開に向けて、まず準備したのはジンギスカン。これがなければお店の名前は語れません。肉は小田さんが必要な分カットするなどのサポートを受けながら、近隣の精肉店から仕入れるなど、工夫を重ねて営業を再開。

タレのレシピも受け継ぎ、小田さんの味を再現しながら北湯口さんがお店の運営に尽力しました。そんなある日、北湯口さんが遠方に居る息子さんへ「ジンギスカン屋を始めようと思っている」という内容の話をすると、それから息子さんが遠野へと帰り、なんと一緒にお店を始めることになったのだとか。北湯口さんにとっても、小田さんにとっても心強い息子さんの帰郷は、その後お店をいち早く復活させる大きなきっかけになりました。

息子さんが帰郷してすぐ、先代店主の小田さんがお肉の切り方を教えてくれました。
それはまだ誰にも教えたことのない、ジンギスカンへのこだわりや想いが詰まった技です。

しかし、その時間はわずか一日。小田さんはその一日にすべてを託し、また息子さんもその想いを受け止め、その後も練習を重ね、今では先代と同じようにお肉を切ることができるようになりました。やがて小田さんはご逝去されましたが、「おいしいジンギスカンをお客さまへお届けする」という想いのバトンを受け、北湯口さんと息子さんは二人三脚で歩み始めます。『まるまんじんぎす館』という店名も、小田さんから受け継いだもの。

店名だけでなく、昔から愛される変わらぬ味を守り続けています。

北湯口さんの強い想いは復活を待ち望んだお客さまへと届き、コロナ禍を乗り越えて、お店はまたかつての賑わいを取り戻しつつあります。営業再開当初は、小田さんの味を知る常連さんとともに、お肉の切り方やタレの味を確認しながら作っていましたが、今では北湯口さんなりのアレンジも加え、当初よりお肉の切り方を少し厚めに切って提供しています。

そんな努力とみんなの愛情詰まったジンギスカンは、お客さまから「お肉がやわらかくて食べやすい」「タレだけでも売ってほしい！」「ここでしか食べられない味」と、とっても好評なんです。