遠野で日常的に使われている「お国言葉」をご紹介します。ぜひ声に出して、その響きのあたたかさを味わってみてください。
酔っ払いの6人娘は最後の〆のラーメンにありついたのだった。
「あやちゃん、あしたけんのっか?」ナオコが手打ちの麺をすすりながら
「あした帰るんだっけ?」と、思い出したように言った。
「せっかぐ、ながいぐなったのにね?もすこし遠野さいだら?」ヨシコももう仲良しだ。
人見知りの多い遠野人だが、一度いっしょに飲んだらもう仲良しの友達だ。
「ながいぐ」が「仲良く」だからね、東京でのコンカツにも活用できるね!
「んだんだ、ケンジ君なんてあでにすんねでも、おらだじが案内すっから、もすこしいればいんだ」
勝手に人の予定を立てるのも、遠野の酔っ払いの性質だ、
もう彼氏であるケンジなんかあてにしないで予定を延ばせばと言ってるのだが、余計なお世話だ!
「あでぬすんねで」が「あてにしないで」ですが、ここのポイントは「おらだじ」だね
オラと言うとトーホグ弁の代表のひとつだが、遠野語でも男だけでなく若い女性も自分をオラと呼ぶ
もちろん相手によるのだが、言い方はやはり、やさしく女らしく・・・が基本だね
「あやー、おらおしょす」とか「おらはやんた」のように
男に口説かれたときにOKなのかNOなのかあやふやな気持ちを表現するときに使えるといいね
もう何と言っているかは解るね?「えー、私はずかしいー」「わたし、嫌!」だよ。
「ありがと、でもバイトもあるし、明日東京に帰る」あやは、冷静だった。
「いーなぁ、東京が?東京のどごなの?」これも、遠野人の訪問者に対する質問の常道だ
「んー」少し戸惑ってぼそっと言った「小岩・・・」
「コイワ?どご?ナオコのニッチャン東京の学校だべ、どごだっけ?」
親戚といわず他人の家族の情報にも詳しい人は遠野に多い、ヨシコもその一人だ
「池袋の専門学校だっけが?コイワってちけの?」
久し振りの酒で機嫌のいいヨシコは自分で聞いておいて自分で答え、さらにあやに質問と忙しい。
「えー、遠い・・・」東京に住んでない人に自分の住む町を説明するのを嫌がる若者は多い
特に都心から少し離れた町に住む人は嫌がるから気をつけようね、説明するのが面倒くさいのだ。
「おらのいどごも東京の杉並区に住んでんだよ、ちかぐ?菊池ヨウジってしらね?かっこいいよ」
ユミコのいとこがカッコイイかどうかは知らないが、この手の質問も多い
「えー、知らない、ごめんね・・・」あやはますます困る
「ユミコ!おめはほんとにぼがだね、わがるわげねーべ東京はひれんだよ!」ナオコが怒っていった
オラといっしょで、相手が女でもオメを使うときがあるからね、「ぼが」は「馬鹿、間抜け」だ、
「ひれんだよ」は「ひろいんだからね」です、
「あやちゃんごめんね、みんなよっぱらってらがら・・・」「皆、酔ってるから・・ごめんなさい」と、ナオコがあやまり、あやも「大丈夫」とうなずいた。「
「んでも、せっかぐ友達になったのに東京さ帰ったらまだ、はりえっこなぐなんね?」
せっかく友達になったのに東京に帰ってしまったら張り合いがなくなってしまうね?という意味だ
一人で淋しいときや、つまらないときにも「はっぱど、はりえっこねー」と嘆いてみるといいね、
東京で一人暮らしの寂しさをメールで遠くの友達に伝えるときに使うといいと思うよ。
「はっぱど」がさらに寂しさを強調してくれるよ!
「うん、ありがと」意味が通じたか通じてないのか解らないがあやはまた、うなずいた。
1955年遠野市生まれ、千葉県在住のガーデンデザイナー・グリーンコーディネーター。本業の傍らイラストレーターとしても活動、遠野のイラストマップ、双六、カルタなども旅の蔵にて販売している。
本業のガーデニングの本、農文協の「きんや先生の園芸教室・はじめての寄せ植え」や旅と思索社「二十世紀酒場1,2」などがある。