遠野で日常的に使われている「お国言葉」をご紹介します。ぜひ声に出して、その響きのあたたかさを味わってみてください。
彼女の濡れてしまった服を拭こうかどうしようか迷っているタイチのケイタイがなった
「なんたらこったなどぎぬ」、ますます慌ててケイタイを探している、「なんだよこんな時に」だね
「なぬどまづいでんのよ」ケンジが「なにあわててんだよ」と言った。
「じゃ、かががらだ」
「女房からだ」と言ったのですが、「かが」がつまりタイチにとっての奥さんですね
同級生、それも二十代の若い奥さんに「かが」はないよね?セクハラだ!
「かががらかがってきた」と言いながらケイタイに出た「かがってきた」は「かかってきた」だから解るね?
ぐやぐやとぐやめきながら「わがった、んでむげさこ」とケイタイを切った。
「ぐやめく」は、この場合は「文句言う」だね、
「あすのあさもはえがらはぐけってこだどよ!んでむげさこってかがってやった!」
みんなに報告するようにタイチが言った。
「はぐけってこ」が「早く帰って来い」。「んで、むげさこ」は「じゃあ、迎えに来いよ!」だ、
この「かがってやった」は「怒ってやった」なんだが、怒ってる割には奥さんの言うことを聞いているようだ。
「かがぬかがってはー」タイチはなにやらブツブツ言っている、
この場合の「かがってはー」は「かあちゃんのせいで」とか「・・のおかげで、まったくもう」という意味になるね
ここいらへんは上級者向けの「かが」の使い分けだからね、難しいね。
「かががらかがった電話で、かがられだが?」佐々木がからかった
「なんたら、ヨシコちゃんもくんの?」
彼女の服を拭きながらナオコが聞いた、「くんの?」はもちろん「来るの?」だよ。「なんたら」はいいね?
「なんたら、もうかえるってが」ケンジはさらに機嫌が悪くなった
「あや、んでおらものせでげじゃ、いべタイチ?」と、佐々木が聞いた
「じゃあ、俺も乗せていってもらおうかな、いいだろう?」ということだね
「えらすぐねな、おめもけるってが?まだいべよ」ソファーの端でひとり飲んでいたケンジが言った
「えらすぐね」は「ひでーやつだな」だ、「まだいべよ」が「まだいいじゃんかよ」と続きます
「すかだねんだよ、みんなしごどあんだがら」ナオコがケンジをなだめていった
「しかたないじゃん、みんな明日は仕事があるんだから・・・」
「どうせ俺はあしたも休みだよ」と、ケンジは面白くない
「何言ってるの、男はケンジくんだけになっちゃうじゃん、モテモテじゃん、ネー?」
あやもナオコの友達たちもみんな元気なのです。
佐々木が最後の一曲だといってまた歌い出したところに迎えが来た
「とーちゃん!」タイチの娘が走りよってきた。
「なんたらおめもきたのが?」タイチは娘を抱き上げ「なんだ、おまえも来たのか?」と、言った
「きゃー、めんけごど」女達は、佐々木の歌などはじめから興味がないので小さな娘の所に集まった
「めんけ」はもちろん「可愛いー」だよ
「ヨシコ!しばらぐだね、げんきだった?」後からスナックに入ってきたタイチの奥さんに声をかけた
「まんつね」機嫌の悪いヨシコはそれでも同級生に逢えたので顔は笑っている
「いーなっは、おめはんだじばり!」遅くまで遊べる友達に彼女はひがむのであった
「いーなっは」」は「いいわね」ですが、「いしたらや」でも女の子らしくていいね!
「おめはんだじばり」が「あなたたちばっかり」です
早くに結婚して二人の子持ちになったヨシコは家事と子育てに追われ皆のように遊ぶ時間などないのだ
「そったなごどねーよ、おめはんごそ、こんたなめんけこどもいでいしたらや」
「おー、けっつぉ!」やばくなったタイチが「帰るぞ!」と、佐々木の歌を止めた。
1955年遠野市生まれ、千葉県在住のガーデンデザイナー・グリーンコーディネーター。本業の傍らイラストレーターとしても活動、遠野のイラストマップ、双六、カルタなども旅の蔵にて販売している。
本業のガーデニングの本、農文協の「きんや先生の園芸教室・はじめての寄せ植え」や旅と思索社「二十世紀酒場1,2」などがある。