遠野で日常的に使われている「お国言葉」をご紹介します。ぜひ声に出して、その響きのあたたかさを味わってみてください。
「ねー、一緒に飲もうよ!」東京から来た娘が、モトカノを誘った
「えー?いーがら、いがら、わだしはあっちで友達と・・・ね?」ナオコはちらっとケンジを見てから佐々木に聞いた
遠野の娘は慎み深いので、なかなか一回目の誘いには乗らないのだ、たとえ同姓の誘いでも・・・
「いーがら 、いがら」はつまり「いーからいーから」と遠慮しながら「もう一回誘って」と言っているのです
「なんともね、かだれかだれ!ともだづもいんでばちぇでこ!」酔っ払いの佐々木はまた大きな声で言った
「問題ないからこっちに来て一緒にやろうぜ、友達と一緒なら連れて来いよ!」という意味です。
「いんでば」は「いるのなら」だね。「ちぇでこ」が「連れて来いよ」です。
「んだども、ほんとにいべが?やんたぐね?」また、ナオコは又横目でケンジを見た。
「んだども」は「でもー」と悩んでいる様子、「いべが」は「いいのかなぁ?」という乙女心だね、「いのすか?」でもいいよ。
さらに「私が来たらいやじゃないのかな?」というケンジへの心配りが「やんたぐね?」だよ。
「こったな酔っ払い気にすんねで、いーがらかだれ!」タイチも誘った。
「んで、友達さ聞いでみっから」ナオコは自分のテーブルに戻っていった「じゃあ、友達に聞いてみるから」だ、
「友達さ」の「さ」がポイントだけどわかるね?
「かわいい彼女じゃん?昔付き合ってたんだ?」東京の女は強い、ケンジに聞いた
「まんつな」。ケンジが恥ずかしそうにそっぽを向き、ショウチューを飲みながら「まーな」と、返事した
「けっこうながいがったんだ、こいつらガハハハ!」
「結構ラブラブだったんだぜ!こいつら」と佐々木がマイク片手に言ったので
「よげーなごどしゃべんでね!それぬなして誘ったんだよ?いらねごどすてがらぬ」
ケンジはますます怒っていった
「余計なこと言うんじゃねーよ、それになんで誘ったんだよ、いらないことするな!」だね、ま、気持ちは解る。
「いーだら、おらだじだって同級生なんだがら、一緒に飲みてじぇな?タイチ?」
「いいじゃんかよ、僕達だって同級生なんだから一緒に飲みたいよな?」と佐々木は言ったのです
「おらだじ」が「僕達」で「おめだじ」が「君達」だからね、「おらだず・おめだず」でもいいよ!
「んだんだ、それぬ、さぎに誘ったのは彼女だっけじぇ」
「そうだそうだ」と言いながらタイチが自分のグラスを取ろうとしたとき、彼女のグラスを倒してしまった。ショーチューがこぼれた。
「きゃー、やーだ!冷たい!」びっくりしてスカートをつまみながら立ち上がった
「さいさい、まがすてすまった、おもさげね!」タイチがあやまった。
ここで大事なのは「さいさい」だね、「こぼした」の「まがすた」や「ごめんなさい」の「おもさげね」は何度も出てきているからもう大丈夫だよね?
「さいさい」は「まずい、失敗しちゃったな」の意味だ、「さーい」の一言でもいいけど「さいさい」の方が気持ちが伝わるね?
「あや、なんたらほに」友達を三人とやってきたナオコが嘆いた。
この場合は「あら、何やってんの、濡らしちゃってかわいそうに」だけど、「あや、なんたらほに」は遠野の女性は必ずマスターしなければならない重要な遠野語なので覚えてね。色々なシチュエーションで出てくるよ!
驚いたときや悲しい事があったとき、気の毒なことがあったときなどなど、とりあえず「なんたらほに・・・・」と、言っておこう。
気持ちをさらに強めるときは「なんたら、ほにほに」だね。男でも使う優しい遠野語だ。
「少ししか濡れてないから大丈夫!でもなんで私の名前知っているの?」
東京の彼女、名前は「あや」だった
1955年遠野市生まれ、千葉県在住のガーデンデザイナー・グリーンコーディネーター。本業の傍らイラストレーターとしても活動、遠野のイラストマップ、双六、カルタなども旅の蔵にて販売している。
本業のガーデニングの本、農文協の「きんや先生の園芸教室・はじめての寄せ植え」や旅と思索社「二十世紀酒場1,2」などがある。