遠野語講座

第七回 うんとぺっこ

遠野で日常的に使われている「お国言葉」をご紹介します。ぜひ声に出して、その響きのあたたかさを味わってみてください。

遠野語講座

「キャー!風がキモチイイー!」
「んだべ?あったなぺっこなくるまより、このトラクタのほうがよっぽどいいべ」
彼女を脇に乗せ、トラクターは颯爽と風を受けて走るのであった
「だろ?あんなちいさな車より、このトラクターの方がずっといいだろう」と自慢するのであった
ぺっこ」はまぁ、小さいということ、「べっこ」と言う場合もあるからね
ぺっこ」も「べっこ」も、少しと言う意味もあるので便利だよ
彼の牛舎に着くと、早速中を案内された
「うわー、すごい牛がいっぱいいるー!」いっぱいは遠野では「いっぺ」だね
「まんつな!こりゃみんなつっつすぼるべごっこだ」つまり「まあな、全部牛乳搾る牛なんだ」だよ
遠野でも、ものの名前のあとによく「こ」をつけるが
トーホグジンを装うには手っ取り早い方法なので、チャレンジしてみようね。
「べごっこって牛のこと?へー、そうなんだ、可愛いじゃん!じゃあさぁ」東京の女はするどい
「牛の子供はべごっこのこっこっこ?、にわとりの子供はこけこっこのこっこっこじゃん、きゃはは」
(んなわげねーべ、トーホグばがぬすてんな、このあねっこ)筆者思う
「いや、つがうな、牛の子供は「こっこべご」、ひよこはひよこだべ!」
(ぼけてんだがらよ、おめーもつっこむどごだべ)同じく筆者嘆く
「こりゃ、ぺっここっちゃきてべごっこちょすてみろ」 彼はまじめなのである
「おーい、ちょっとこっちにおいで、牛にさわってみろよ!」と、彼は誘っているのだ。
この場合の「ぺっこ」は「少し」の意味になるね!だが、ここで大事なのは「ちょす」だ、
「さわれ!」と命令するときは「ちょせ!」、「さわんじゃねーよ」と、けんか腰にいうときは「ちょすな!」だよ。
いざというときに、直ぐ出てくるようにしようね。
「やばくねー、ウヒャーちょーやべーよこれ」 
(こっちの方が難しい)筆者つぶやく・・・・
ひととおり東京の女と牛とのふれあいも終わったので、牛乳をご馳走してもらうことになった。
「いっぺあっから、うんとのめよ」つまり「たくさんあるからね、いっぱい飲んでいいよ」と、いうこと
うんと」は「ぺっこ」の反対で、たくさんということだね。
同じような意味だから「うんとあっから、いっぺのめよ」でもいいんだよ。
「オイシー、濃いのね?」スーパーの牛乳との違いは解るらしい
「んだべ?飲め飲め、なんぼ飲んでもいいじょ」
「いくら飲んでもいいよ」と、喜んでいるのです。
「じゃ、おかわり、でも少しでいいです」意外に謙虚なのだ
ここで遠野の娘だったら「あや、んで、ぺっこばり」と、恥ずかしそうに返事をするはず
このとき本当にお腹いっぱいでほんの少しでいいときは「うんとぺっこ」と表現するからね、
こごが、ぺっこ遠野語のむずがすどごだな、んだべ?

[[[ 多田きんや プロフィール ]]]

1955年遠野市生まれ、千葉県在住のガーデンデザイナー・グリーンコーディネーター。本業の傍らイラストレーターとしても活動、遠野のイラストマップ、双六、カルタなども旅の蔵にて販売している。
本業のガーデニングの本、農文協の「きんや先生の園芸教室・はじめての寄せ植え」や旅と思索社「二十世紀酒場1,2」などがある。