遠野語講座

第六回 ちゃっちゃどせ

遠野で日常的に使われている「お国言葉」をご紹介します。ぜひ声に出して、その響きのあたたかさを味わってみてください。

遠野語講座

側溝に入ってしまった車を彼女に押してもらうわけにはさすがにいかなくて
しばらくひとりで押したり引いたりしていたのだったが
「すかだねな、あえづにトラクターでしっぱってもらっかなぁ」
「しゃんねーな、あいつにトラクターで引っ張ってもらおうかなぁ」という、意味だ。
「ようやく、人に頼む気になったんだ?」広い遠野はケイタイが大活躍だ
遠野人はいじっぱりでプライドが高いのであった
「なぬすてこったなどごでささってんのよ、ねぷかげが?」すぐに農家の彼がやってきた
「何でこんな所ではまってんだよ、居眠りかい?」彼もまた、するどいのである
「おしょすぐねのが、あねさんのまえで・・・んとに、ぼがだな?」
「はずかしくないのかよ、彼女の前でさ、ほんとにバカだねお前は」と言う意味なのだ。
「いいがらちゃっちゃど、ロープゆっつけで、しっぱってけろじゃ」
ここでもでてきた重要な言葉「ちゃっちゃど」は「ちんたらやってねーで早くしろよ!」ってことだ
どうです、都会でも使えるでしょう?
「ゆっつける」は「結ぶ、結わえる」だな、
つまり「いいから早くロープ結んでひっぱりあげてくれよ!」と、頼んでいるのです、これでも・・・・
「んったぐ、さっそぐなやづだな?まんついますこすまってろ!」
「まったく、気の短いやつだな、いいから少し待ってろ、今やるから」、面白くはないのである
彼女に向かって彼が言った「よぐもまだ、こったなやづどデートすんな?」
「よくもまあ、こんな野郎とデートするもんだねー?」
都会の姉ちゃんを見て、彼は気が変わってしまった
「じゃー、あねっこ、こったなどろぐるまより、おれのトラクタでデートすんねが?」
「あねっこって、あたしのこと?そうね、面白そうジャン、行こうかな」
彼は積極的だった、モトカレは車もそのままにされ「どまづぐ」(うろたえる)のであった
「べごっこみせっからよ!あべあべ、つっつものましぇっつぉ!」
ちなみに彼は阿部と言う名前ではない
「牛も見せるよ、行こう、行こう」の「あべ」だ、「つっつ」はこの場合「牛乳」
「牛乳も飲ませるんだもんねー」皆こんな風だったら独身は減るはず・・・・・・
「んで、きばれよ」
              

[[[ 多田きんや プロフィール ]]]

1955年遠野市生まれ、千葉県在住のガーデンデザイナー・グリーンコーディネーター。本業の傍らイラストレーターとしても活動、遠野のイラストマップ、双六、カルタなども旅の蔵にて販売している。
本業のガーデニングの本、農文協の「きんや先生の園芸教室・はじめての寄せ植え」や旅と思索社「二十世紀酒場1,2」などがある。